電子ペーパー「QUADERNO」ブランディング企画

南澤 沙良 / Sara Minamizawa Fujitsu Works
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「QUADERNO(クアデルノ)」とは、デジタルの便利さとアナログの書き心地を両立したデジタルなノートです。2018年12月、富士通のコンピュータ事業を担っている富士通クライアントコンピューティング株式会社(以下FCCL)から、新しいコンシューマー向け商品として発売されました。


私たちデザインチームは、FCCLの新事業への挑戦のパートナーとして関連部門と一丸となり、商品の企画・開発からプロモーションコンテンツのディレクションに至るまで一貫して担当させていただきました。パソコンやタブレットのような「電子機器」のイメージを払拭したブランドづくりは、FCCLの新事業への意気込みを体現しています。


公式ホームページ

Design Direction南澤 沙良 / 揖 隆弘 / 森口 健二
Client富士通クライアントコンピューティング株式会社

コンピューティングの力で手書き体験をアップデートする

QUADERNOは、バックライトを使用せずに描画できる特殊なディスプレイパネル(電子ペーパー)を採用した電子端末です。紙のノートに匹敵するほどの薄さ・軽さをそなえており、その書き心地は紙に書く感触に非常に近いですが、一方でページ数が増えてもかさばらず、手書きしたものを移動できるなど、デジタルならではの便利さも併せ持ちます。


長年コンピューティングの力でビジネスシーンに貢献してきたFCCLが、コンピューティングの対象領域を紙媒体にまで拡大し、ビジネスシーンをさらに快適にするため、QUADERNOのプロジェクトが始まりました。


FCCLの主力事業である「コンピュータ」と、「紙」の間をうまく取り持ち、今まで紙でしか満たせなかったニーズを満たしつつ、さらにコンピューティングの力でよりクリエイティブな手書き体験を実現する役割を担うのが「QUADERNO」です。


紙に書くような書き心地

「QUADERNO」ブランドの誕生

「QUADERNO」とはイタリア語で「ノート」を意味します。タブレットのような電子機器ではなく、シンプルに「有能な文具(ノート)である」というコンセプトのもとに名づけられました。


QUADERNOにできることはタブレットと比較するとそれほど多くはありません。しかし、ノートとして見ればとても柔軟です。PDFにさえすればどんなものでも入りますし、ノートのフォーマットも自由に選択することができます。その使い方は、紙のノート以上に使う人の数だけある、余白のある製品なのです。


デザインチームへの最初の依頼は、そのような特徴を持つ製品のロゴをデザインしてほしいというものでした。ロゴをデザインするためには、商品コンセプトやターゲットユーザーが明確である必要があります。しかし、依頼が来た当初は大まかな方向性しか定まっていませんでした。そこで、改めてプロダクトのコンセプトをどうすべきかから考えるため、まずは競合になりそうな製品の売り場を観察することから始めました。


当初、企画部は電子ペーパーを「手帳」をキーワードとして売り出そうとしていましたので、家電量販店に加えて手帳売り場にも足を運びました。他の電子ペーパー端末の売り場はどうなっているのか、ノートや手帳がどのような売り文句、どのような世界観でそれぞれの商品の良さを伝えているのかを消費者目線で観察します。手帳の売り文句は例えば「インデックスで探しやすい」などでした。このような「売り」は、デジタル端末であるQUADERNOが得意とするポイントなのではないかと気づきました。しかも、これは手帳だけでなく広くノート全般に言えることです。 文具市場は成熟した市場に見えますが、絶えず新しい価値を提供し、進化し続けています。ノートが進化した姿がQUADERNOだと言えるのではと考え、高価格帯であることも考慮し、ビジネスマンが使うこだわり文具としての有能なノート、というコンセプトが生まれました。


発売当初の製品ロゴは、電子端末のイメージを払拭し文具らしさを表現するために手書きを印象づけるモチーフを使用して制作しました。使い始めて最初に目にするチュートリアルページ等にも世界観を展開しています。


実は、社内の事情で発売当初にはまだQUADERNOという名前はついておらず、命名のタイミングで私がデザインした商品ロゴもアップデートしてしまったのですが、ロゴを制作した際に定めたコンセプトやビジュアルイメージは、今でも商品企画やプロモーションの軸となっています。


発売当初のロゴとキービジュアル

ロゴ制作時に定めた商品コンセプトに基づいて、プロモーション用コンテンツのデザインディレクションや、QUADERNOの価値を訴求する活用シーンの提案も行いました。できるだけニュアンスが伝わるように、広告代理店の方と直接会って会話をし、密にコミュニケーションをとりながら制作いただきました。


こだわり小物の世界観を作り上げたキービジュアルや、シックで大人の持ち物を印象づける色使いを取り入れた公式サイトなど、QUADERNOのコンセプトを体現するデザインに仕上がったのではないでしょうか。


公式ホームページ


ビジュアル撮影の立ち合いの様子

顧客の前にデザイナーが立つ、現場の声に耳を傾ける

大きな組織の中にいると、自身が開発に携わった商品を手に取るお客さまに会う機会は非常に稀です。しかし、今回は今後の製品開発につなげるため、製品発表会やタッチ&トライイベントに参加してデザイナー自らお客さまと会話し、反応を見る貴重な機会をいただきました。


実際にお話ししてみると、自分の立てた仮説が合っている点、少しズレている点それぞれが、お客さまの本音として見えてきます。主婦こそ子どもが学校でもらってくるプリントや自治会の資料などデータ化したい資料が多いのでは?と思っても、よく話を聞くと価格が主婦の金銭感覚にマッチしていなかったり、大学ではノートをとる習慣がなくなっているのかなと思いきや「教授はスライドを写真に撮るのをやめてほしいと思っているから大学とは相性が良いかも」など現場にいる人にしかわからない感覚で、今後の展開の可能性を考えてくれたり、仮説だったものがより確信に近づいていく感覚がありました。


現実の購買行動は思っていた以上に複雑で、購入に至るにはあらゆるハードルを絶妙にクリアしていく必要があると気づけた、学びの多いひと時でした。


蔦屋家電でのタッチ&トライイベントでデザイナー自らユーザーの声を聴く

ファンの一員として開発する

開発チームのミーティングは今や全員ペーパーレスです。QUADERNOの良さや改善ポイントを見極めて開発をするために、関係者は皆QUADERNOを日常的に持ち歩き、愛用しています。


私自身も、プロジェクトスタート時から約1年QUADERNOを愛用していますが、紙に戻りたいと思ったことはないくらい私のワークスタイルにフィットしました。QUADERNO 1台の中でプロジェクトや用途毎にノートを分けたり、レイアウトを気にせず書きなぐったアイディアを後からコピー&ペーストして整理したり、プレゼン資料を転送してセリフをメモしたりと、大活躍しています。


この商品の魅力をもっと世の中に届けるべく、発売後すぐに購入くださった方や文具界に精通した方の声を聴きながら、QUADERNOの魅力を拡張する機能開発や、広く価値が伝わるプロモーション施策を継続的に実施していきます。

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