「採点支援システム 」競技のスタンダードを目指す 3Dセンサー デザイン開発の裏側

城 愛美 / Manami Jo Fujitsu Works
  • プロダクトデザイン
  • UXデザイン
  • スポーツ

世界で初めてAIによる体操採点を実現した採点支援システムは、選手の動きを捉える3Dセンサーと、審判が採点を確認するアプリケーションからなり、審判の採点を支援します。
私はこのプロジェクトにおいて、長年3Dセンサーのプロダクトデザインを担当してきました。体操競技という特殊な環境、初めて導入されるシステムであることから、現場での検証を重ね、センサーもアップデートを繰り返してきました。現在で3代目となるセンサーのデザインにどのような想いを込めてきたのか、そのプロセスをご紹介します。

Client富士通株式会社 スポーツ・文化イベントビジネス推進本部
Director滝澤友洋、板野一郎(富士通デザイン株式会社)
Product Designer 城愛美 、加藤励 (富士通デザイン株式会社)
UI Designer 有馬和宏 (富士通エフ・オー・エム株式会社)

体操競技の公平性を目指して

近年高度化する体操競技において、各国の審判や選手のレベル格差を埋め、公平で透明性の高い競技を実現する―――

採点支援システムは、3Dセンシング技術・AI技術・ワザのデータベースで、体操競技の公平な判定を実現するシステムです。 3Dセンサー/アプリ/UXのトータルデザインにより、選手・審判双方に配慮しています。さらに、選手強化・エンターテインメントへの活用を視野に入れ、スポーツ競技全体の盛り上げに寄与することを目的としています。

スタートはカバーのデザインから

3Dセンサーのデザイン開発に携わったのは2016年からになります。
研究所が開発したセンサーに被せる簡易カバーを作成するところから始まりました。1号機は富士通製品の存在感を示すため、ブラックの筐体色・レッドのラインを配した外観でした。その後、2号機では筐体サイズ・レンズがアップしたことから、ひとまとまりに見えるフロント造形に注力しました。

1号機:センサー機器を覆うカバー
2号機:フロントのレンズ類をまとめる造形へ

体操大会や練習場で実証実験を重ねていくうちに、システム運用側の設営方法などの見直しや、マグネシウム粉(選手が使用する滑り止め粉)の防止などの課題があったため、さらに製品仕様を変更しました。

そこでデザインとしても外観だけではなく、使用者への考慮、センサーがどのような存在であるべきかを1から見直すことにしました。

目指したのは STANDARD for ATHLETE

3号機のデザイン開発にあたり、私たちが掲げたのが「STANDARD for ATHLETE」でした。

グローバルに格差なく使える、「新たなスタンダード」を確立すること。

・審判、選手、システム運用者、全ての関係者にとって使いやすいこと。


その実現のために、体操競技場・練習場へ足を運び観察やヒアリングを重ね、1つ1つ回答を導き出しました。3Dセンサーは、大会関係者が目にする先進技術の粋を集めたシステムの象徴と捉え、これまでのスクエアからオーバル(楕円)形状としました。スムースな造形は技術への信頼感と先進感を与えることを目指しました。

3号機:特徴的なオーバルの造形を採用

選手、システム運用者への配慮

センサーの使用環境も見直しました。競技エリア端、演技をする選手の近くに設置されるセンサーはこれまでの競技シーンにはなかった異物。だからこそ選手の演技を妨げず、集中できることが大切であると考えました。センサーのフロントをネガRとすることでレンズが突出しない造形とすることで圧迫感を抑えています。

フロントの圧迫感を抑えるため一段凹ませたレンズ
設置のエラーを防ぐ、視認性のよいラベリング

さらにシステム運用面においては、大会毎に数多くのセンサーを競技会場へ素早く展開し、間違いなく、的確な運用が求められます。
そこで機材の設置・撤去方法を観察し、ケーブルコネクタや吸排気カバーの配置、現場でセンサーを区別するラベルの作成を行いました。
こうして、現在の3号機のデザインが完成しました。

これからの活躍に向けて

採点支援システムは、ドイツ(シュトゥットガルト)で開催された「第49回世界体操競技選手権大会」における同システムの正式導入が承認されました。 (*1)

さらに2019年グッドデザインアワードにおいて、グッドデザイン金賞を受賞しました。 (*2)

本プロジェクトの社会への貢献、そしてこれからの可能性が社会へと発信されています。今後も公平性の高い競技が実現することで、審判の負荷を減らすだけでなく、選手の新たな挑戦を後押しし、選手の凄さを観客に伝え、競技全体を盛り上げていきます。
微力ながら、デザイナーとして3Dセンサーの開発に携わり、本プロジェクトの一端を担えたことをとても嬉しく思います。


*1:「第49回世界体操競技選手権大会」で富士通の採点支援システムを正式導入
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2019/10/2-1.html

*2:グッドデザインアワード2019 グッドデザイン金賞 「採点支援システム」
https://www.g-mark.org/award/describe/49660

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