「e-Gov」リニューアルプロジェクト

富士 聡子 / Satoko Fuji Fujitsu Works
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2020年11月に約10年ぶりにリニューアルされた「e-Gov(イーガブ)」。2018年から2020年にかけて設計・開発を行った2020 年更改のプロジェクトの中で、サービスのUX向上を行うことがリニューアルの主な目的のひとつでした。プロジェクトのデザインチームのリーダーを務め、HCDプロセスで実施したUXデザインについてお話します。

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HCD-Netフォーラム2019(HCD普及貢献団体・特別表彰式&記念講演) ※e-Govのパートナー企業

Client総務省 行政管理局様
Development富士通株式会社
Director西田善彦、菊地陽介
Chief Designer富士聡子
Designer棈木緑、酒井幸子、池田涼、菅原利晃、澤野鯛子
Partner富士通エフ・オー・エム、テクノプロジェクト、イード

人間中心設計(HCD)プロセスでデザインすることが条件となったリニューアルプロジェクト

公共事業には「調達」という仕組みがありますが、今回のUX向上を目的としたe-Govのリニューアルプロジェクトの調達では、ISO9421-210が定義する人間中心設計(HCD)プロセスの開発実績や要員の経験が求められました。

私はこのプロジェクトで初めて行政サービスのシステム開発に係ることになりましたが、民需でのデザイン業務の経験を活かし、2年間のプロジェクト期間の半年、他のチームと並走するプロセスを検討。電子申請サービスを中心とした主要機能を対象としたHCDでのデザインプロセスを提案しました。

人の暮らしに根付いた良いものにしていきたいという想い

受注後、プロジェクトの序盤で行われた顧客主催の共創ワークショップや現行システムのユーザビリティテストでのインタビュー等で、実際の利用者の生の声を聞く機会があり、デザイナーとして行政サービスに係ることの責任感と純粋により国民に広く使われるサービスにしていきたいという想いは、プロジェクトを推進する力となりました。

特に印象に残っているのは、共創ワークショップに参加されていた社会保険労務士の方が語った

「申請のため最寄りの役所に車で片道1、2時間かかることもある」という現状。

人口が少ない地方ではハローワークや役所が多くはなく、紙で申請する方は申請に半日かかってしまうこともあるそうです。e-Govの電子申請を主に利用するのは個人事業主の社労士の方が多いのですが、まず無料で利用できるe-Govから電子申請を導入してみたいと思っていただけるようなサービスにリニューアルしていきたいという気持ちを強くしました。

国民を巻き込んだ改善サイクルから設計された新しい行政サービス

デザインプロセスでの成果物は利用者やサービスの関係者を巻き込みながら改善していきました。ペルソナ、ジャーニーマップのユーザー行動フロー、情報設計、UI設計、HTMLモックアップの計4回で各フェーズ・成果物ごとにワークショップ形式のレビュー会を実施。またユーザーインタフェース設計フェーズでは簡易プロトタイプ、HTMLモックアップで2回設計中のユーザビリティテストを実施しました。

行政と開発事業者の中で閉ざされた形での検討ではなく、利用者や関係者を巻き込んで仮説検証の機会を複数回設けてることができ、国民視点のデザインがしたいという想いを実現にすることができたプロジェクトでした。

2019年の関係者ワークショップの様子。富士がプロジェクターをポインターで指して、ワークショップのファシリテーションをしている。
関係者ワークショップ(2019年)
2019年の関係者ワークショップの様子。20人ほどの参加者が会議室に集まり意見を出し合っている。
関係者ワークショップ(2019年)
2019年の関係者ワークショップの様子。壁に成果物があり、その上から参加者の意見が付箋で貼られている。
関係者ワークショップ(2019年)

運用中も継続される改善プロセス、利用者の「よくなったね」という声

リリース後、HCDプロセスでの改善サイクルは継続中です。システムの運用保守プロジェクトにもUXチームが参画、定期的な評価を行っています。初年度は設計中と同じシナリオでユーザビリティテストを実施。保守作業で改善を続けています。

設計中のテストに参加いただいた社労士の方にリリース後にもご協力いただき、リニューアル前と比べて「格段によくなったね」との声をいただくことができました。プロジェクトの目的であった”UX向上”を実感できた瞬間で、本当に嬉しかったです。

リリース後のユーザビリティテスト。手前に進行役のモデレーター、奥のPCを操作する被験者の男性。
ユーザビリティテスト(2021年)

行政サービスのデザインと今後

このプロジェクト以降からデザイナーが関わる官公庁の案件が増えていきました。今回の事例は国民向けのサービスでしたが、行政手続のオンライン化の実現に向けて、行政側のサービス検討プロジェクトにも参画。現状の審査業務の調査からUX設計、新サービスのプロトタイピングまでのサービスデザインを実施し、国の行政の業務改革に対してデザイナーとして取り組みました。

また社内の官公庁を担当する営業やシステムエンジニアへの教育など、事業・組織へのデザイン思考や人間中心設計の浸透を目指し活動中です。デジタル・ガバメント実現に向けて、国民と行政をつなぎ、デザインの力で社会に貢献していきたいと思います。

※e-Govの旧サービス名は電子政府の総合窓口 e-Gov。リニューアル時は総務省が運営。現在はデジタル庁が運営を行っています。

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